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2021年の公式戦も終わり、規定投球回数達成者が決定しました。
今回は時代とともに変化する規定投球回数を中心に話を進めていきます。
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減少傾向の規定投球回数達成者が大幅改善
2005年以降の12球団の規定投球回数達成者をグラフ化しました。
2005~2012年の間は達成者数は上下動しており、特に傾向はありません。
2013年からは変化がみられ、右肩下がりに減少傾向を示しています。
特に2018年からは急激に減っており、明らかに大きな変化が起きています。
しかし、2021年になると急激に増加傾向に転じています。
この原因としては“延長なし”となった影響が大きく関与したと思われます。
① リーグによる規定投球回数到達の違い
ある程度の上下動はありますが、両リーグともに全体的に減少傾向です。
セ・リーグに関しては2013年からきれいに漸減しているのがわかります。
パ・リーグも2017年以降はセ・リーグと同様にきれいに漸減。
2019年のパ・リーグと2020年のセ・リーグでは過去最少6人となりました。
しかし、前述の通り2021年はパ・リーグでの急増が目立ちました。
セ・リーグに比べて改善率がかなり顕著だったのがグラフからわかります。
② 2014年以降の規定投球回達成者の達成回数
2014年以降の規定投球回達成者の達成回数をグラフ化しました。
過去8年なのですでに引退した選手もいますが含めた形で掲載しています。
12球団トップは安定感No.1の西勇輝投手。
次いで涌井秀章投手、菅野智之投手、則本昂大投手、大野雄大投手になっています。
トップを守ってきた菅野智之投手がここ数年の不調でランクダウン。
逆にケガで不調だった則本昂大投手の復活が2021年の明るい話題です。
過去8年で達成回数が6~7回達成は先発投手として”優秀”と言って良いでしょう。
規定投球回数を達成したということは多くのイニングを消化したことになります。
同時に、大きなケガはなく、1年間安定して投球できているからこそ。
高いスキルとコンディショニング維持があったからこそ達成できる記録と言えます。
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先発投手の投球回や防御率と”100球制限”
規定投球回数達成者が変化する理由としていくつか考えられます。
ここからはそれに関係してくる投球回数と防御率について紹介していきます。
① 先発投手全体の投球回は改善
ここでは規定投球回達成者以外の先発投手も加えて考えていきます。
2020年は120試合制に変更したため、143試合相当の1.9倍で計算しています。
2021年に規定投球回達成者数の増加に伴い、先発投手の投球回数も変化しました。
セ・リーグは2020年からほぼ横ばいですが、パ・リーグは右肩上がりとなっています。
② 先発投手の防御率は改善傾向
投球回数と同様に先発全体の防御率にも変化がみられます。
2019年までは悪化傾向にありましたが、2020年からは顕著に改善しました。
特にパ・リーグにおいては2020年から大幅な改善に成功しています。
防御率が改善が前述の投球回数と規定投球回数到達者数に反映しました。
ただ、2020年は120試合制、2021年は延長なしとイレギュラーなシーズン。
2022年以降にどう変化するかによって2020~2021年の評価が判断されるでしょう。
③ 常識となった「100球制限」と「投手分業化」
MLBの影響から現在では先発投手は100球を目途に先発投手は降板します。
どの球団もこの「100球制限」を取り入れており、球界では常識となっています。
それに伴い、球数が多い投手は長い投球回を投げることが難しくなりました。
制球難のある先発投手のみならず、奪三振の多い先発投手でも球数を要します。
少ない球数で打ち取っていくタイプの投手が有利な時代となっています。
こうした背景もあり、現在の規定投球回数到達者の減少に拍車をかけてきました。
また、近代のプロ野球界では投手の分業化が進んでいます。
以前のように先発完投への価値観は変化し、完投数も極端に減少しています。
球数制限や分業化により先発投手の投球回は減少するのは当然でしょう。
野球のスタイルや価値観が変わる中、規定投球回をどう捉えていくかは課題です。
完投数に関する記事はこちら
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2019年から導入された「MLB発の新制度」
近年では先発の登板パターン自体に変化が出ています。
主にショートスターター、オープナー、ブルペンデーの3つを紹介します。
① 日本ハムは「ショートスターター」を多用
日本球界では日本ハムがショートスターターを積極的に取り入れていました。
ショートスターターは本来は先発投手が4回を目途に登板し、第2先発につなぎます。
つまり、先発投手ができる投手を1試合に2投手用意し継投していくスタイルです。
2019年開幕当初は斎藤祐樹投手、加藤貴之投手、金子千尋投手などが務めました。
ただ、戦略として上手くいっているようには感じない印象です。
そして2021年以降はショートスターターもあまりみられなくなっています。
② DeNAや巨人は「オープナー」を採用
MLBでは「オープナー」という中継ぎ投手を先発させる戦術があります。
近年はトレンドとして強打者が上位打線に並ぶことが多くなってきています。
そのため、1~2回は勝ちパターンのリリーフが登板して上位打線を抑えていく。
本来の先発投手は2~4回の少し楽な場面から登板するという継投スタイルです。
The opener keeps working.
For the second straight week, the #Rays are the Bullpen of the Week. https://t.co/y6dEoUGs1k #PrevailingMoments pic.twitter.com/bzseg6hVER
— MLB (@MLB) August 20, 2018
DeNAでは2019年に国吉佑樹投手、2020年にスペンサー・パットン投手が登板。
また、巨人では2020年に宮國椋丞投手が登板する機会もありました。
[ 2019年以降のオープナー登板 ]
登板試合 | 内容 | |
---|---|---|
国吉佑樹 (DeNA) | 2019年4月21日 vs カープ戦 | 1回 自責点4 (失点4) |
堀瑞輝 (日本ハム) | 2019年8月4日 vs ソフトバンク戦 | 1回 自責点0 (失点0) |
堀瑞輝 (日本ハム) | 2019年8月6日 vs オリックス戦 | 1回 自責点0 (失点0) |
堀瑞輝 (日本ハム) | 2019年8月11日 vs ソフトバンク戦 | 1回 自責点0 (失点0) |
堀瑞輝 (日本ハム) | 2019年8月13日 vs ロッテ戦 | 1回 自責点0 (失点0) |
堀瑞輝 (日本ハム) | 2019年9月23日 vs ロッテ戦 | 1回 自責点2 (失点3) |
宮國椋丞 (巨人) | 2020年8月9日 vs 中日戦 | 2回 自責点2 (失点2) |
スペンサー・パットン (DeNA) | 2020年9月3日 vs 巨人戦 | 1回1/3 自責点7 (失点9) |
③ 中継ぎでつなぐ「ブルペンデー」制度も
他にも「ブルペンデー」という制度も存在します。
文字通り、リリーフ投手のみで1試合をつなぐ戦術で先発投手は休養日です。
[ 2019年以降のブルペンデー登板 ]
登板試合 | 内容 | |
---|---|---|
佐藤優 (中日) | 2019年4月27日 vs 阪神戦 ※ 笠原投手のケガにより |
3回 自責点3 (失点3) |
唐川侑己 (ロッテ) | 2019年7月10日 vs 日本ハム戦 ※ ボルシンガー投手のケガにより |
1回 自責点0 (失点0) |
山田修義 (オリックス) | 2019年9月5日 vs 西武戦 | 3回 自責点1 (失点1) |
澤村拓一 (巨人) | 2019年9月14日 vs カープ戦 | 3回 自責点0 (失点0) |
笠谷俊介 (ソフトバンク) | 2020年8月6日 vs 楽天戦 | 2回 自責点0 (失点1) |
笠谷俊介 (ソフトバンク) | 2020年8月9日 vs 楽天戦 | 3回 自責点0 (失点0) |
武藤祐太 (DeNA) | 2020年8月10日 vs 阪神戦 | 3回 自責点1 (失点1) |
吉田一将 (オリックス) | 2020年8月15日 vs オリックス戦 | 3回 自責点0 (失点0) |
笠谷俊介 (ソフトバンク) | 2020年8月20日 vs ロッテ戦 | 4回 自責点0 (失点0) |
吉田一将 (オリックス) | 2020年8月20日 vs オリックス戦 | 3回 自責点2 (失点2) |
平井克典 (西武) | 2020年8月20日 vs 西武戦 | 5回 自責点0 (失点0) |
風張蓮 (ヤクルト) | 2020年9月3日 vs 阪神戦 | 2回 自責点2 (失点2) |
藤浪晋太郎 (阪神) | 2020年10月28日 vs 中日戦 | 4回 自責点1 (失点1) |
松本裕樹 (ソフトバンク) | 2021年4月11日 vs 楽天戦 ※ 千賀滉大投手のケガにより |
4回 自責点0 (失点0) |
ただ、仮にリリーフ投手だけでつないだとしても記録上は「先発投手」。
少ないイニングで交代してしまえば、先発投手のイニング数平均に影響します。
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規定投球回数の概論
1リーグ制の1936年から採用され、現在の基準となったのは1966年からです。
ただし、年間試合数の変更によって達成ラインは度々変更されてきています。
- 1軍規定 試合数 × 1.0
- 2軍規定 試合数 × 0.8
① 規定投球回数の変化
[ 2009年以降の規定投球回数 ]
セ・リーグ | パ・リーグ | 備考 | |
---|---|---|---|
1990-1996 | 試合数×1.0 | 130 | |
1997-2000 | 試合数×1.0 | 135 | |
2001-2003 | 140 | 140 | |
2004 | 138 | 133 | 2004 アテネ五輪派遣選手の特別措置 |
2005-2006 | 146 | 136 | |
2007-2014 | 144 | 144 | 2008 北京五輪派遣選手の特別措置 |
2015- | 143 | 143 |
2004年の和田毅投手はアテネ五輪派遣選手の特別措置が適用されました。
当時は規定投球回数には133回が必要でしたが、派遣期間を考慮され128回1/3で達成しています。
[ 2004年 和田毅投手のシーズン成績 ]
19試合 10勝6敗 防御率 4.35 128回1/3
② 2020年は”変則の規定投球回数”
2020年の公式戦試合数は感染症により120試合となりました。
それを元に計算される2020年の規定投球回数は以下の通りです。
2020年規定投球回数 120試合×1.0 = 120回
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新たな指標の提案
よく言われることですが、「試合数×1.0」自体を変えるべきとの声があがります。
現在の野球では分業制が進んでおり、先発が長い回を投げることも少なくってきました。
そうした変化の中、数十年前に決められた基準を採用し続けることが難しくなっています。
近年、規定投球回数到達者が顕著に減少していることからも間違いない事実でしょう。
そのため、近年ではいくつかの新基準が提案されています。
[ 提案されている新基準 ]
- 試合数×0.8
- PR (Piching Runs) = (リーグ平均防御率-防御率)×回数÷9
① 「試合数×0.8」
いたってシンプルな案で、単純に『1.0➡0.8』に基準を下げるというもの。
現行の基準から少しだけ下げることで、今までの価値を大きく変えずに済みます。
例えば、2020年を0.8の基準に変更した場合は以下のようになります。
変更した場合 120試合×0.8 = 96回
この基準の場合、現在の基準から約3倍ほど到達者が増加します。
最終的にはもう少し減ってくると思いますが、新基準として適当かも知れません。
ただ、そもそも基準を下げることが良いのかどうかも考えないといけません。
下げた数値に合わせ始めると、投手レベルの低下する可能性も考えられます。
② 「PR (Piching Runs) 」
これはアメリカで用いられる投手を評価する指標のようです。
プラスになるほど平均よりも優秀と評価され、マイナスになるほど平均より劣ると評価されます。
PR (Piching Runs) = (リーグ平均防御率-防御率)×回数÷9
元々はRSAAと呼ばれるものをベースに、失点率を防御率に置き換えて計算されています。
RSAA(Runs Saved Above Average)=(リーグ平均失点率-失点率)×回÷9
ただ、検索してみましたがあまり評価として使用されることも少ないように感じます。
同時に防御率が評価として疑問視されている今、防御率を含めた評価は良いのかという疑問もあります。
ライターの広尾晃氏は執筆された記事の中でPiching Runsを推奨されています。
PRの良いところは、規定投球回数にとらわれず同一リーグのすべての投手を比較できることだ。両リーグともに先発投手に交じって、救援投手の名前も上位に来る。トータルでの投手の貢献度を見ることができるのだ。
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今回のまとめ
今回は先発の投球回数を中心に話を進めてきました。
年々、規定投球回数達成者が減少していましたが改善傾向がみられます。
2020年の120試合制、2021年の延長なしが影響したかも知れません。
これに関しては通常の制度に戻ってみないことには判断が難しいところです。
近年、打者の技術は急激に向上し、長打力のある打者も増加しています。
同時に投球スタイルも”強い球を投げ込む”スタイルに変化しつつあります。
先発ローテを固定するのも難しい時代になってきているのも事実。
打者のレベルが上がれば、投手の負担はどうしても大きくなってきます。
時代とともに変わりつつある先発投手の立ち位置。
先発の価値観の変化を楽しみながらそれぞれの投手の活躍を期待しています。
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