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近年のプロ野球界では投手の分業制が進んで役割が細分化されています。
今回は減り続けている完投数にスポットを当てて現状について話を進めていきます。
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2011年以降のリーグ別完投数
まずは2011年以降のリーグ別の完投数の推移をグラフ化しました。
これを見るだけでNPB全体で完投数が減ってきていることがわかります。
誰しも10年前に比べて完投数の減少を感じてはいるかと思います。
また、リーグ間でも傾向に差があることもグラフ化することでわかります。
① セ・リーグの球団別完投数
次にセ・リーグの球団別の完投数の推移をグラフ化しました。
セ・リーグ全体で見た場合、緩めではありますが右肩下がりの傾向のようです。
2018年に巨人が激増しましたが、2019年には一転して減少しています。
中日だけ2020年に顕著に増加していますが、大野雄大投手による影響です。
② パ・リーグの球団別完投数
次にパ・リーグの球団別の完投数の推移をグラフ化しました。
パ・リーグで見た場合、セ・リーグに比べて右肩下がりが顕著。
全体的に2011年から2013年にかけて大幅に減少したのがわかります。
特にソフトバンク、日本ハム、ロッテの3球団がその傾向が顕著でした。
2019年なると6球団の完投数が収束する特徴が見られ平均化が起きています。
日本ハムは2019年のリーグワーストから一転して2020年はトップに躍りでました。
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③ 現役で最も完投数の多いのは「涌井秀章投手」
現役選手で完投数の多い順にピックアップしてグラフ化しました。
通算では涌井秀章投手が長く先発で活躍しているだけあり群を抜いています。
次いで、金子弌大(千尋)投手、和田毅投手、岸孝之投手が続きます。
この辺りはだいたい予想できたベテラン投手たちだったように思います。
和田毅投手はMLB在籍5年間があり、日本に残っていればもっと伸びたでしょう。
逆に言えば、5年間不在でもトップ3位に位置しているところが素晴らしいですね。
中堅投手では菅野智之投手と則本昂大投手がトップクラスに位置。
則本昂大投手は手術の影響もあり、完投数が伸びるのは難しいかも知れません。
若手投手の中で”完投型投手”は正直みあたりません。
2020年にセ・リーグ新人王を獲得した森下暢仁投手でも2完投でした。
④ 通算完投数上位投手たちの完投数推移
続いて、上記の通算完投数上位投手の完投数推移をグラフ化しました。
先ほどトップに位置した涌井秀章投手も2011年以降は一気に減少しています。
その理由として西武時代の2012~13年にリリーフに回ったことがあげられます。
ロッテ移籍後は2015年に5完投しましたが、それ意外の年はほぼ完投していません。
菅野智之投手は入団以来、順調に数を伸ばしてきましたが2019年に失速。
先発完投タイプでしたが、故障により以前ほど完投することはなくなりました。
2019年に両リーグトップの6完投と大きく伸ばしたのが大瀬良大地投手。
しかし、2020年に右肘の故障もあり、今後伸ばしていくのは厳しくなりました。
2020年に目立ったのはやはり大野雄大投手の10完投。
初の沢村賞も獲得し、完投数トップのみならず飛躍の1年となりました。
完投数と言えば「沢村賞」
完投数が関与するタイトルと言えば「沢村賞」。
沢村賞の受賞には以下の7つの基準が設けられています。
- 登板試合数 25試合以上
- 完投試合数 10試合以上
- 勝利数 15勝以上
- 勝率 6割以上
- 投球回数 200回以上
- 防御率 2.50以下
ただし、受賞において全ての基準を満たす必要はありません。
このうちいくつ達成したか、どれを達成したかで判断されてます。
ある意味、“アバウト”と言える判断ですが、ルール上そうなっています。
改めて、完投数の基準を見ると「10完投」はかなり高いハードルです。
近代野球でこの数字を毎年達成するのは至難の業とも言えるでしょう。
① 2011年以降に沢村賞投手で10完投は3人
2011年以降の沢村賞投手の完投数を見るとそれがよくわかります。
10完投できたのは田中将大投手、菅野智之投手、大野雄大投手の3人。
それ以外はほとんどが6完投以下で10完投がいかに難しいかがわかります。
近大野球において10完投という基準は不釣り合いと言っても良いでしょう。
② 2011年以降で10完投した投手は5人
2011年以降に全投手で10完投を達成した投手は以下の通りです。
10年間で5人しか達成していないをの見るとかなり高いハードルはです。
2013年に金子千尋投手が10完投しましたが沢村賞は受賞していません。
田中将大投手が24勝0敗の脅威的な成績を残したことで受賞を逃しています。
シーズン10完投達成者
シーズン10完投達成者 (回数) | |
---|---|
2011年 | 田中将大 (14完投)・ダルビッシュ有 (10完投) |
2013年 | 金子千尋 (10完投) |
2018年 | 菅野智之 (10完投) |
2020年 | 大野雄大 (10完投) |
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2019年は19年ぶりに沢村賞の「該当者なし」
2019年の「沢村賞該当者なし」について堀内恒夫氏は以下のように述べています。
野球のシステムが変わってきて、非常に完投しにくくなっている。ですからクオリティー・スタート(QS)という項目を参考に入れている。でもこれを(選考基準に)入れるほどレベルを下げていって、完投なしでもいいとなると、沢村さんの名前に傷をつけてしまうような気がする。
果たして本当にレベルが下がったと言えるでしょうか。
個人的には野球全体のレベルが上がり完投が難しくなってきたと考えています。
少なくとも、この10年で打者のレベルは格段に向上してきているはずです。
それに対応するためには、「球速」と「変化球」の種類が必要となりました。
昭和時代の野球のように「2球種で勝負」といった投手は通用しなくなりました。
どのように考察するかは様々ですが、少し疑問の残るコメントだったと思います。
いずれにしても、選考基準を達成する投手が少なくなったのは事実。
今の時代の野球に沿った基準へと変化していくことが必要だと思われます。
① 選考委員の年齢構成の改革も
現在の沢村賞選考委員は以下の5人となっています。
基本的に通算200勝以上の「名球会」投手から選出されています。
[ 沢村賞選考委員 ]
通算勝利数 | 沢村賞受賞歴 | |
---|---|---|
平松政次 | 201勝 | 1970年受賞 |
堀内恒夫 | 203勝 | 1966年・1972年受賞 |
村田兆治 | 215勝 | 受賞歴なし |
北別府学 | 213勝 | 1982年・1986年受賞 |
山田久志 | 284勝 | 受賞歴なし |
選考委員が全て60歳以上であり、年齢構成も見直しても良いかも知れません。
例えば、山本昌氏や佐々木主浩氏などの若い年代も加えていても良いですね。
根本的に言えば、メンバーが名球会入り投手である必要もないかも知れません。
選考委員の2名は沢村賞受賞歴がありませんし、こだわる必要もないでしょう。
とはいえ、完投がほとんどない投手が沢村賞というのは味気無いのも確か。
完投数撤廃という形ではなく、基準を少し引き下げるなどの検討も必要です。
② 完投数に対する疑問は声は「海外」からも
ソフトバンクに在籍したCJ.二コースキー氏は以下のようにコメントしています。
Tweetの最後には「10完投?!?!」と完投数の基準に驚いた反応を見せていました。
25試合、15勝、10完投、勝率.600、200イニング、防御率2.50、150奪三振がいずれの投手でも標準的な基準が満たされなかったため、今年のNPBでは沢村賞を誰も受賞しませんでした。これらすべての条件を満たす最後のMLB投手は、1999年のランディ・ジョンソンです。10完投?!?!
No Sawamura Award winner in NPB this year (Japan’s version of the Cy Young) because the standard criteria wasn’t met by any pitcher: 25GS, 15W, 10CG, .600WP, 200IP, 2.50ERA, 150K. The last MLB pitcher to do all of these things was Randy Johnson in 1999. 10 CG?!?!
— CJ Nitkowski (@CJNitkowski)
※ 現在は削除されています
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MLB最後の「10完投」はジェームズ・シールズ投手
MLBで最後に10完投を達成したのは2011年のジェームズ・シールズ投手(James Anthony Shields)。
ただ、2011年に11完投(4完封)しましたが、それ以外の年は3完投が最高でした。
かつての9年連続二桁投手も、2018年を最後に所属球団がなくその後は不明です。
年齢的にも厳しくなってきており、再びMLBでの登板がみるのは厳しいでしょう。
通算成績 407試合 145勝139敗 4.01
① サイヤング賞を受賞した投手の「完投数」
MLBにも年間最高投手に与えられるサイヤング賞があります。
そこで、2011年以降のサイヤング賞投手の完投数を振り返ります。
調べてみると、2014年のクレイトン・カーショー投手の6完投が最多。
多くの投手が5完投以下で、MLBでは完投に対する評価は無くなりつつあります。
アメリカンリーグ | ナショナルリーグ | |
---|---|---|
2011 | クレイトン・カーショー (5) | ジャスティン・バーランダー (4) |
2012 | R・A・ディッキー (5) | デビッド・プライス (2) |
2013 | クレイトン・カーショー (3) | マックス・シャーザー (0) |
2014 | クレイトン・カーショー (6) | コーリー・クルーバー (3) |
2015 | ジェイク・アリエタ (4) | ダラス・カイケル (3) |
2016 | マックス・シャーザー (1) | リック・ポーセロ (3) |
2017 | マックス・シャーザー (2) | コーリー・クルーバー (5) |
2018 | ブレイク・スネル (0) | ジェイコブ・デグロム (1) |
2019 | ジャスティン・バーランダー (2) | ジェイコブ・デグロム (0) |
2020 | シェーン・ビーバー (0) | トレバー・バウアー (2) |
② カープで最後の「10完投」は黒田博樹投手
カープで最後に10完投をした投手は誰かを調べてみました。
かなりデータをさかのぼってみたが、黒田博樹投手の2005年が最後。
その後も黒田博樹投手の7完投が最高で、前田健太投手でも5完投が最高。
16年前までさかのぼらないといけないほど、10完投は難しくなりました。
黒田博樹投手でも10完投を達成したのは2001年と2005年の2回です。
元エースの2人でも10完投を達成するのがいかに難しいかがわかります。
さらにさかのぼってみると、元エースの2人が複数回達成していました。
北別府学氏がプロ通算6回、佐々岡真司氏がプロ通算2回を記録しています。
◎ 北別府学投手
- 1979年 12完投
- 1981年 13完投
- 1982年 19完投
- 1983年 12完投
- 1986年 17完投
- 1988年 13完投
◎ 佐々岡真司投手
- 1991年 13完投
- 1999年 13完投
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今回のまとめ
今回は先発投手の完投を中心に話を進めてきました。
近年は投手の分業制が進み、完投する投手が減少しています。
また、障害予防のため100球を基準に球数制限も行っています。
昭和のような「先発は試合の最後まで」という価値観も変わってきました。
むしろ、故障を避けるため完投したくない投手の方が多いように思います。
完投するのが難しくなった今、沢村賞の基準も検討する時期にあります。
現実的に10完投する投手はほとんどおらず、戦術自体も変わってきています。
変わりゆく野球界の中でタイトルの基準も変化していくべきかも知れません。
ただ、先発完投型の投手はファンとしてもワクワクするのも事実です。
100球が近づくたびに「そろそろ交代か」と思ってしまうのは正直残念。
ベンチサイドも「100球制限ありき」で次の準備し始めるのも寂しいものです。
チームに1人くらいは最後まで投げ切れる強い投手がいて欲しいとも思います。
時代とともに野球のスタイルも変化し価値観も変わっていきます。
しかし、1試合を任せられる先発完投型投手が現れるのを期待しています。
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